ここ数年、国内の宿泊業界で急増している「オールインクルーシブ」型の宿。しかし、私はこの流れに悲観的な立場を取っています。もちろん流行には理由があり、現場の利便性や人材不足への対応策として一定の成果もあるでしょう。ですが、将来的に見てこのスタイルは“宿の魅力”を大きく損なうと確信しています。
ここでは、私がなぜ「多くのオールインクルーシブ宿は持続可能性に疑問符がつく」と言い切れるのか。その理由と背景を、宿泊業に携わる経営者の皆さまへ向けてご紹介したいと思います。
感動の分散──宿泊体験は“緩急”が命
宿泊体験は、まるでフルコース料理のようなもの。前菜、スープ、メイン、デザートと順を追って展開されてこそ、満足度は最大化されます。
オールインクルーシブは、これをすべて同時に出すようなもの。結果として「記憶に残る瞬間」が分散してしまい、感動が薄まるのです。

お客様は一泊の中で、心を動かされる“ワンシーン”を求めています。それは美味しい料理かもしれないし、ふとした接客の一言かもしれません。そこに意図的な「緩急」がなければ、ただ“なんとなく快適だった”で終わってしまうのです。
飲み放題の末路──価値は“希釈”されていく
かつて流行した「居酒屋の飲み放題」。はじめはお得感がありましたが、やがて“安い酒”の象徴になってしまいました。
オールインクルーシブも、全く同じ道を辿ると私は見ています。

「すべて含まれている」=「質が悪くても気づかれない」という構造が働きやすく、結果的にサービス全体の質が低下していきます。
一部では高品質の提供を維持している施設もありますが、それはほんの一握り。やがて「オールインクルーシブ=コスパ悪い」の印象が世間に広がり、ブランドとしての魅力を失っていくでしょう。
ブームは必ず終わる──“差別化”ではなく“消耗戦”へ
私が宿の商品開発で常に意識しているのは「いかに真似されないか」。
良いものほど、すぐに真似されて、ブームになって、そして廃れていきます。

オールインクルーシブというスタイルも、もはや“差別化”ではなく“消耗戦”の入り口。ブーム化してしまった以上、参入障壁は下がり、価格競争とサービス品質の低下が加速する未来は目に見えています。
一度始めたら抜け出せない──オペレーションの罠
オールインクルーシブは、一見便利な運用形態です。
・人件費を抑えられる
・オペレーションが簡素化できる
この2点が導入の主な理由です。

しかし、一度その型にハマると、後戻りは非常に困難です。
オペレーションを簡略化するということは、“人とのふれあい”を削ることと同義。今後、DXが進んだとしても、宿泊業における“心ある接客”の価値はますます高まります。
それを放棄してしまうと、時代の流れに逆行する結果になってしまうのです。
“半オールインクルーシブ”という考え方
実は、私が関わる宿の中にも「一部オールインクルーシブ」に近いサービスを導入している施設はあります。
しかし、それを“オールインクルーシブ”と謳うことはありません。あくまで、サービスの一環であり、お客様が期待以上の体験を得られる仕掛けとして設計されています。

・手間なく、でも感動のポイントは外さない
・無料サービスに見えるが、しっかりと価値を提供している
そうした工夫を凝らした“計算された設計”が、これからの宿の差を生みます。
まとめ──未来を見据えた宿づくりを
「今、流行っているから」
「他もやっているから」
そんな理由でオールインクルーシブに飛びつくのは非常に危険です。
数年後、「オールインクルーシブ」という言葉そのものが古くさいものとして扱われる未来が、もう見えています。
本当の差別化とは、緻密な設計と、圧倒的な体験価値の創出から生まれるもの。
未来のスタンダードは、そこにあると私は信じています。
最後に、もちろんオールインクルーシブを先鋭化させて生き残る宿は必ず存在しますが、大きな潮流の流れに飲み込まれる宿が多いことを予想しています。