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【旅館再生】旅館・ホテルのクレーム対応、どこまでやるべき?

経営ヒント

ある“カンカンに怒ったお客様”が、リピーターになった話


「お客様がカンカンに怒ってるんです。どうしたらいいでしょうか?」

ある日、こんな連絡が来ました。

「海向きの部屋に泊まれるって書いてあったらしいのですが、部屋から海が見えないと怒られています。
でも全室海向きなんですよ。プランに嘘は書いていないのに、全然納得してくれなくて……。
しかも満室で部屋の変更もできません。」


こんなケース、実はけっこうよくあるんです。
販売を伸ばそうと、多彩な宿泊プランをたくさん作っていると、
「書き直すのを忘れてた」「以前の文言が残ってた」などのミスは起きがち。

本来なら防ぎたいことですが、プラン管理の徹底が難しい現場ではどうしても起こり得ます。

そして、そんな時こそ本当の対応力が問われるのです。


私の答えはこうです。

「宿泊費、全額無料にしましょう」
「さらに、次回使える1泊2日分の無料宿泊券も渡してください」


そう言うと、ほとんどの方が驚きます。

「えっ!?いやいや、ちょっと待ってください。
こっちは悪くないと思うんですが…」
「さすがにそこまでしなくても…」
「伴さん、それ本気ですか?」

はい。本気です。


なぜ、そこまでやるのか?

私は実際に旅館を経営していた時、
クレーム対応についてさまざまなパターンを試してきました。

  • 宿泊代の20〜80%割引
  • 食事代だけ無料
  • ドリンク無料
  • お詫びの品を渡す
  • 館主からの直接謝罪
  • 部屋のグレードアップ
  • 土下座

できる限りのことはやりました。
でも――どれも結果は同じでした。


結局、お客様はとても怒って帰る。

  • 二度と来なくなる
  • 予約サイトに低評価を書く
  • クチコミで悪印象を残す

「これだけ謝ったんだから許してくれるだろう」
「この割引で納得してくれるだろう」

…という期待は、ほとんど裏切られました。


転機となった“本気の謝罪”

ある時、こんな対応をしました。

宿泊代を全額無料、館内利用もすべて無料

1泊2日・同人数分の無料宿泊券を進呈

すると、そのお客様は後日きちんと宿泊券を使って再来館。
そして、その後も年に2回のリピーターになってくれました。

あれほど怒っていた方が、です。(言葉を選ばず言うならば、ブチギレてたお客様です)


クレーム対応は「コスト」ではなく「投資」

全額無料に加え、もう1回分無料で泊まってもらう。
その実費は2〜3万円ほどの負担になります。

でも、そのお客様がSNSや予約サイトに高評価を残してくれたことで、
広告よりもはるかに大きな効果がありました。


一度でいいから試してみてください。
「宿泊費は全額無料、さらに無料宿泊券も渡す」

たった一人の怒れるお客様が、最高の味方になるかもしれません。


お客様の怒りの背景を理解する

「いや、たった一言の書き間違いなんですよ」
「他のお客様は満足してるのに…」
「わざわざクレームを言うなんて…」

そんな風に思ってしまう気持ち、よく分かります。
でもお客様にとっては、

「旅行の計画を立てて、何軒も比較して、
その中で“ここが一番良さそう”と思って選んだ」
「1人4万円、家族4人なら16万円以上かけて来ている」
「自分にとって、ここは“一番期待していた宿”だった」

そんな大きな期待が、たった一文で裏切られてしまったのです。


だからこそ、必要なのは――

「お客様の想定を上回る謝罪と対応」

中途半端な割引や、形式的な謝罪では意味がありません。
むしろ逆効果です。


クレームは“最高のマーケティングチャンス”になる

怒っているお客様ほど、喜ばせることができれば、
感情の振れ幅が大きい分、ものすごく拡散してくれます。

  • SNSで感動体験として拡散
  • Googleやレビューサイトで高評価
  • トリップアドバイザーで満点評価がつく

そのインパクトは、数万円の広告では到底届かない効果を生みます。


最後に

もう一度言います。

「宿泊費は全額無料にして、さらに無料宿泊券も渡してください」

それが、クレーム対応の最高到達点であり、
お客様との信頼関係を取り戻す唯一の近道だと、私は信じています。

クレーム対応=コストではなく、“未来の予約を得るマーケティング”だと考えてください。


そして、覚えておいていただきたいのは、
中途半端な妥協点に落とし込もうとすると、結果として莫大なコストになるということです。

  • 不満が消えないままの顧客からの長電話や追撃メール
  • クレーム対応に振り回され、本来すべき業務が止まる
  • 精神的に疲弊した担当スタッフが離職してしまう

こういった目に見えづらい損失を積み上げていくと、年間で数百万円単位のコストになってしまうこともあります。


だからこそ、最初から「きちんと謝って、しっかり弁済する」ほうが、結果として圧倒的に効率がいいのです。


実は、コスト意識の高い海外の高級ホテルチェーンほど中途半端な対応をしません。

一般客室に宿泊していたお客様であっても、
トラブルがあればスイートルーム級の部屋へ即案内し、感情が沈静化するレベルのケアを行うのが普通です。

なぜなら、それが最も効果的であり、
「ぐうの音も出ないような謝罪対応」が、リピーターを生み、ブランド価値を守ることにつながると分かっているからです。


▶︎ クレームこそ、チャンス。
対応の仕方ひとつで、“一番怒っていた人”が、“一番のファン”になります。


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